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「あっそうなんだ。香さんとなら安心ね。」
僕一人じゃ安心でないのか?と聞き返したくなるが、そんなことより今は米だ。
「でも香さんに粗相の無いようにね。」
ユキはニコリと笑って付け加える。
(僕は子供ですか…??)
疑問が浮かぶも、時間も無いわけで、食べるスピードを上げる。
ユキは非常に香になついていて、すでにある意味姉妹のような関係だ。
肉親の居なくなったユキには、同姓の姉のような存在が嬉しいのだろう。
ズズ~っと味噌汁の最後の一滴を吸い込み、
「ごっそさん。まぁそんなわけだから、ユキはコンちゃんとでも夕飯を済ましてきな。」
スーツに袖を通しながら、ユキと同じ大学であり、うちの隣りの花屋の次男坊と夕飯を済ませる旨伝える。
(ユキとコンちゃんも時間かかったけど、ようやく付き合いだしたしな。)
兄としては若干寂しい気持ちもあるが、僕とも幼馴染みのコンちゃんと付き合ったわけだから、その点は少し緩和されているように感じる。
そんなたわいのない、
いつも通りの会話、
いつも通りの食事、
いつも通りの2人の時間…
これがずっと続くと、
この時の僕らはそう信じて、ほんの微塵も疑っていなかった。
「いってきまぁ~す。」
ユキに一声かけて、家の扉を開く。
多分この時、同時に僕の新しい世界も開かれていたんだ。
この日、僕の当たり前は跡形もなく消失する。
そして君との世界の初まりの幕が、ユックリ、ほんの少しずつ上がっていくのを。
扉の外から射し込む、夏の太陽に照らされて俯いてしまった僕には、その時気付くことができなかった。
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