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「ここ、ね……」
ぎゅっと道順が書かれた紙を握り締め、グレーの所々亀裂の入ったオンボロビルを見上げた。看板は出ていないが間違いないのだ。目を閉じてあの人の言葉を思い出す。『きっと、助けてくれますよ』あの人は笑顔でそういったのだから大丈夫。一呼吸大きく吐くと、ビルのドアを開けた。ギギギギとなんとも耳障りな音がして、埃っぽい空気に軽くむせる。エレベーターはないようだ。入った目の前に上へ上がる階段がある。確か、三階。心細い気持ちで階段を上がっていく。大丈夫、ここなら大丈夫。気づけば三階の踊場に出ていた、異様な明るさを放っている小豆色の鉄製のドアが見える。ドアの曇りガラスの窓には白く『KPO』とだけ書いてあるシールが張ってあった。手汗がひどい。ドクドクと脈打つ心臓を押さえて落ち着かせる。大丈夫。あの人を信じて、震える指でドアノブを掴みゆっくりと捻る。このドアは見た目とは違い滑らかに開いた。
「え…?」
中は、机を挟んで向かい合った黒いソファが真ん中においてあり、あの亀裂の入ったビルの中の一部屋だとは思えないほど明るく、きれいだった。
「きゃっ」
いきなりスカートを引っ張られ、思わず叫んだが下を見ると自分の腰ほどもない小さな女の子がこちらを見上げていた。センター分けの前髪から覗く広いおでこと子供らしい黒目がちな目に一瞬唖然とする。
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