プロローグ

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 血管から患部へ移動する性質から、錠剤タイプ以外にも注射や点滴により直接体内に送り込む方法や、シールの粘着剤に塗布して体に貼り付ける湿布のようなタイプのものも存在するが、携行するのが容易で、かつ、使用時に体への負担もほとんど無い錠剤タイプのものが、最も普及したのだ。  そして…当初は医療目的であったナノタブは、研究者たちの様々な改良を経て、脳に直接情報を送り込む疑似体験装置としての応用が、ある意味、必然的に始まった。  火付け役は何時の時代でも若者たちだ。合法か非合法か、大人たちが判断に迷っている間に、若くして工学医療技師の資格を取得した…頭は良いが倫理観が若干欠如した…若者の手により、非合法ドラッグと違って…今のところ…副作用の無い幻覚作用を得られるタブレットが出まわり始めると、その可能性が営利企業の目に留まるところとなり、幻覚というような制御が曖昧なものではなく、目的をもった疑似体験を可能とするシムタブの製品化が行われたのだ。前述の理由で万能薬は無理でも、脳という特定の器官への働きかけであれば、ある程度複雑な効能を発揮させることが可能だったのだ。  
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