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「とは言っても、三つ目の方法を実行するつもりは微塵もないので、事実上は二つですね」
「早く教えろ!」
急かす綾香を嘲笑うようにキトは、順に指を一本づつ折りながら続ける。
「一つ、あなたは自分の意思で命の共有を断ち、僕は実体を失う。これは事実上契約破棄になりますね」
「も、もう一つは!」
「二つ、あなたも僕と同じように、"不死身"の幻妖に堕ちる事です」
「っ…!!」
その二つの方法は、綾香にとって絶望しかなかった。
「ふざけるな!ならば私はもう人間には戻れないのか!」
「人間に戻るなら、もうあなたは人間として死ぬしか道はないですね。生き残りたいなら幻妖に堕ちるしかない」
「だからふざけるな!私は絶対に幻妖にはならない!」
「……」
綾香はまた崩れ落ち、小さく項垂れる。
その一方で、キトが何故かほんの一瞬だけ笑顔が消えた事に綾香は気付かない。
そんな綾香と視線の高さを合わせ、ポンと肩に手を置きながらキトは言った。
「僕は実体が欲しい、あなたは生きたい…互いの利害の一致です、長い付き合いになりそうですが宜しくお願いします」
その時のキトの笑顔は、綾香にとって悪魔の微笑みにしか見えなかった。
そんな事は気にもせず、キトは最後に補足として付け足す。
「言い忘れてました…こうして実体を持った幻妖は通称"契約幻妖"、契約者の事は"契羅"と呼称します」
「ふ…ふざけるな!」
しかし今の綾香にとって、そんな事はどうでも良かった。
「私も……お前と話してみて随分と印象が変わったぞ」
「というと?」
「なんて腹黒い男だ!」
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