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翔次はそれを哀しい目で見送ると、すぐに刀を鞘に納めて踵を返す。
「…行くぞ…」
「お、おう…」
これは、自身の弟子が道を誤ってしまった為の、翔次のケジメだった。
それは、何よりも哀しいケジメだった。
翔次がその場から立ち去ろうとすると大護もすかさずそれに続く一方、地に項垂れた骸は静かに蒸発するかのように消滅する。
「壱妖……やれやれだ。平和だった期間が長過ぎたせいか、はたまた弟子に対する甘えか、我が師は随分と腕が鈍ったようだ」
そんな二人の後ろ姿を、虹平は木の上から見送っていた。
たった今死滅した筈の虹平は、実はただの身代わりだった。
「だが好都合…改めて復讐の時を伺い、そして貴女に会いに行きます…修さん」
それからまた時は流れた。
和嶽の里は滅び、その中で生き残ったのは、翔次を助けに呼びに里を出た秋と千広、そして辛うじて裕紀の援護が間に合った子龍の三人だけだった。
千広は元久神の為、実質的に生き残った和嶽は秋と子龍の二人のみ。
後に里へ戻った秋は泣き叫びながら、千広と共に時間を掛けて一人一人の墓石を建て始める。
一方で修の元へ翔次は戻るが、しかしまだ子供は産まれていない。
思いの外難産のようだった。
「翔…次…!」
酷く汗ばむ修が、途切れ途切れに翔次の名を呼ぶと、それに対し翔次は修の額を優しく撫でながら小さく頷く。
すると修は、フッと微笑んだ。
「うん…わかった…」
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