~第参拾玖幕~

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伊織の指導の下、剣術を学ぶ明の腕前もまた確実に上昇していた。 かつては大太刀を力任せに大振りに振るっていただけの明だが、技に長けた伊織により繊細さが磨かれる。 「はぁ……はぁ……」 「その鋭い眼……見れば見る程、若い頃の火渡翔次にそっくりですね」 「父さん…?」 そして、あまりにも激しい指導の中で大きく肩を揺らしながら息をする明の目付きは、知る者なら誰もが思うであろう翔次によく似ていると伊織は漏らした。 それに対し明が、父はどんな人物だったのかと尋ねたそうな顔をしていると、それを悟った伊織は先に口を開く。 「誰よりも意志が強く…誰よりも芯の通った方でした」 「………!」 悪い気はしなかった。 母の事もそうだったが、少なからず父の事も褒められたようで、明は不意に表情が綻ぶ。 ずっと険しかった明の表情が緩んだ事で伊織も不意にフッと微笑み、スッと背筋を伸ばした。 「さて……稽古を再開しますよ」 「はい!!」 そのまた一方で、和嶽の里で秋の指導を受けている桜も、順調に成長しているようだった。 「違う違ーう!もっと腰から!」 「はい!!」 その中で秋も、伊織と同じような事を思っていた。 「しかしこうして見てると…やっぱり親子だね、修ちんそっくり☆」 「お母さんと?」 「うん☆ホントそっくり!」 当然ながら、桜に母の記憶はない。 しかし、知る人と出会うと誰もが口を揃えて言う。
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