3,顔を出した非日常

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「戦陣の叫び。一陣の牙は黄壌を舞い、叫びを超えて刃となる。招来、双刃鎌鼬!」 双刃鎌鼬(ソウジンカマイタチ)。鎌の刃の形を成した風で、見た目は普通の鎌鼬だが、それは両刃であり、威力が増す。力を抑えてもAランクであるアークだからこそ出せる難しい技だ。 それが間髪いれずにドームに注がれる。耳を塞ぎたくなるような音を立てながら一息も入れずに攻撃するが、ドームは傷どころか、揺らぐことすらなかった。 舌打ちをするアーク。その様子を冷静に見ていたアーサーも右腕を伸ばす。 「炎の呼吸。乱れて弾け、爆炎」 完全詠唱で放たれた爆炎。授業で生徒たちの出したものとは比べ物にならないほどでかい。教室一つ分くらい巨大なそれは爆発音を轟かせながらドームに激突し、包むように燃え広がる。数十秒炎に飲まれるドームだったが、それでもまったく動じなかった。 斬撃も熱も効かない。それどころか、あれだけの炎に包まれたってのに中は一つも熱くなかった。 これはちょっとまずいな。 「あの威力の魔法を浴びて傷もつかないなんて……。一体なんなの?」 「フィアさん、大丈夫ですか!?」 「アー君! 僕も何か撃つよ!」 良くない事態だということはとりあえず把握し、アーサーに目配せをする。それに一度頷き、アーサーはエリとセリスとティリーを自分の側に引っ張った。 セリス辺りが何か反論しようとしていたようだが、アーサーは有無を言わさず転移する。行き先はもちろん巣燕。 みんながいなくなってから、アークはドームに歩み寄ってきた。俺も同様に歩み寄り、半透明の壁を挟んでアークと向かい合う。 「マスター。申し訳ありません」 声は普通だが、その顔は悲痛に歪められていた。 「アーク、よく考えようか。誰がどっから見てもこれは俺の自業自得だ」 「いえ。完全に俺の、」 「そんなことよりさ。問題は……」 手のひらをドームにつける。質の良い魔力で、完璧に生成されていた。思い当たるのはたった一つ。 「封侵結界(ホウシンケッカイ)だな」 「まさか……」 俺がよく盾代わりに使う断空などとは根本的に違うもの。対象を保護し、許可されたもの以外の一切の侵入を阻止する最上級クラスの防御魔法だ。
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