9,アンチュルーナ

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「不覚だ……」 午前八時五十三分。すっきり爽快な目覚めで上半身を起こし、目覚まし時計を手に取った俺は茫然と呟いた。ちなみに寮の自室じゃなくて聖白の三階の部屋だ。がっつりロイ達と訓練して疲れちゃったので、『今日はこっちに泊まるから学校は俺抜きで行っといてー』ってアークに言ってあったからさ。 そうです寝坊ですね。 誰も起こしに来ないという状況を甘く見た結果がこれだよ。ちょうどホームルーム始まってる頃だわ。くそ、俺としたことが……。 「しかしなんだこの気持ち。気持ち良いほど盛大に寝坊したあまり、逆に冷静になるこの気持ち」 そんなこと言ってる場合じゃないのにゆっくりとベッドから降りる。義眼入れて顔洗って、歯を磨きながらあくびしたら凄い勢いでむせた。何やってんだ俺は。あとどうでもいいけど左目見えないから距離感がつかめなくて、歯ブラシ取ろうとしたら届いてなかったり、歩いてても肩ぶつけたりするのがとても面倒くさい。 「なかなか視力回復しねえなー。どれくらいかかるんだろ」 ブレザーに身を包み、カーテンと窓を閉める。公園のすみっこに転移してからジジイに魔力封印かけてもらうと、なかなか出ないウンコみたいな倦怠感が身体を取り巻いた。やっぱり慣れない。なんかこう……落ち着かない。 それにしても平日なのに公園は混み合っていて、犬の散歩とかジョギングとか子連れとかが結構いる。すごくのどかだ。しいて言うなら手を繋いで微笑み合ってるカップル辺りなんかは消し飛べばいいのにとか思うけど自重。 ちょうどいい気温で、心地いい気分だった。このままどっか出かけたいとか、そんなどうしようもないこと考えながらのんびり通学路を歩く一時。 だけど俺は、そんな呑気だった自分自身を激しく後悔することになる。
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