9,アンチュルーナ

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散乱する机や椅子。クラスのみんなはほとんどが立ち上がっていて、黒板の前に集まっている。大人しいタイプの女子や男子数人は怯えたように角に溜まっていて、誰のものかも分からない荒い息が響いていた。 俺は前の方のドアから入ったから、黒板前に密集している皆がすぐ目の前に居る状態だ。その中心で、群れるみんなから何かを庇うように立っているのは見慣れた人影。 仁王立ちで立ちはだかるアークとスティオール先生と、二人の一歩後ろで周りを睨みつけているエリ。そして教卓の影に隠れるようにしてしゃがむセリスとティリーと、その二人に庇われた状態で座り込んでいるのは…… 「…………モモちゃん?」 絞り出すように声を掛けると、小さく丸まったモモちゃんの背中がびくりと飛び跳ねた。おそるおそる顔を上げたモモちゃんを見て、俺の血の気が引いていく。 額は切れ、血が伝っていた。耳の下辺りで二つに結われていた髪は乱れ、汗で頬にへばりついている。少し破れたジャケットとスカートは埃か何かで汚れていた。 膝や腕には転んで擦り剥いた傷。頬は赤く腫れ、こめかみには痣が出来ていた。 そしていつも感情というものを表さない瞳は恐怖に染まり、いっぱいの涙を浮かべて震えている。 「お、おう。フィアじゃん……」 黙ったままの俺を窺うように、群れていた奴らの一人が呟いた。全員が俺に注目したまま静まり返る教室で、やっと俺に気付いたアークやエリ達が振り向く。 「何があった?」 なるべく怒りを露わにしないように、取り乱さないように。静寂が包む教室で静かに声を発してみれば、最大限まで張り詰めていたアークの殺気が緩んでいった。
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