9,アンチュルーナ

5/138
前へ
/985ページ
次へ
「……今朝、学校中にこれが貼られていたんだ」 落ち着いた声でアークが何かを差し出す。それはなんの変哲もないA4用紙で、俺は歩み寄って受け取った。そこあったのはプリントされたモモちゃんの写真と、その下につらつらと書き綴られた文章。 獣人。 魔獣と人間の子供。 理性の箍が外れやすい。 狂暴。 不潔である。 穢らわしい。 忌み子。 整った文章で淡々と書かれているけれど、頭に入ってくるのは散りばめられたその単語たちだけだ。食い入るように紙を見つめたまま動けない。 モモちゃんが、獣人。 手のひらに汗が滲むのが分かった。この世界で、獣人は差別の対象だ。Gランクの比じゃない。気持ちが悪いと、忌み嫌われる。イオールでは特に法律で獣人をどーこーっていうのはないけど、隣のレディス国なんかは最悪だ。所得も、店の出入りも、娯楽も、かなり制限されているって聞いた。その差別化に便乗して、イオールでも獣人は嫌悪の対象にされてるんだ。 この国の法律では差別されてないっていうのに。人の意識は変わらない。 けど十年近く前に獣人女性が亡くなったのを最後に、もう全滅したはずじゃ……。 「最初はみんな狼狽するだけだったらしいけど、だんだんパニックになったのよ。あたしたちが登校した時には、本当に獣人かどうか調べるって名目で追いかけまわされているところだったわ」 「途中で騒ぎを聞きつけた教員が騒いでるやつを教室に押し込めたが、この有り様だ」 エリ、アークが苦虫を噛み潰したような顔で言葉を吐き出し、ティリーとセリスはモモちゃんの背中を必死にさすっていた。黙ったままの俺をどう勘違いしたのか、群れの中にいたやつの一人が俺に詰め寄り口を開く。
/985ページ

最初のコメントを投稿しよう!

34558人が本棚に入れています
本棚に追加