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「……は? 俺達が悪いの?」
「どう考えても、獣人のくせに隠して学園来てたそいつが悪いんじゃん」
ぼそぼそと呟きが聞こえるけど、アークが睨んだだけで黙り込む。それきりモモちゃんの泣き声だけが響く教室で、動いたのはスティオール先生だ。モモちゃんを軽々と抱き上げると、いつになく真剣な面持ちで全員の顔を見渡した。
「この中で、獣人に襲われた人はいるのか?」
「…………」
「レアリス・べニアに傷つけられた者。不快な思いをさせられた者。獣人として理性を飛ばしたレアリス・べニアを見た者。誰か一人でもいるのかと聞いている」
スティオール先生の言葉に、皆が目を見合わせる。いるわけないからな、そんなやつ。誰一人言葉を発しない教室で、スティオール先生は俺達に背中を向けた。
「周りに流されず、ちゃんと考えてみなさい。とりあえずは自習だ。ちゃんと席を直しておくんだぞ」
いつもよりずっと低い声でそう言い残すと、モモちゃんと一緒に教室を出ていくスティオール先生。気まずい空気が流れて数分、誰からともなく散乱した机を直しだす。だけどアークたちは動かなかった。怒りとか悔しさとか、真実を知った驚きとか。色んなものがごちゃごちゃになったような表情を浮かべている。それが特に色濃く浮き出ていたのはティリーだった。
「どうして……」
セリスに支えられながら立ち上がったティリーが、俯いたまま呟く。蚊の鳴くような小さな声だったけど、それは教室中に木霊した。
「どうしてあんな……あ、あんな酷いことが出来るんですか? 昨日までは普通の……クラスメイトで。とっても大人しいけど、そんなモモちゃんにみんな優しくて……」
「ティリー……」
歯を食いしばって俯くティリーの表情は、前髪に隠れて見えなかった。泣いてるのかもしれないし、我慢してるのかもしれない。そのうちにぽつり、ぽつりと言葉が飛び交いだす。
「そんなこと言ったってさ……。獣人だよ? ていうかあの子無口だし、もともと仲良いわけでもないし……。半分魔獣の子と今まで通りとか無理じゃん」
「ここにも書いてあるしさ、ほら。『理性の箍が外れやすい』って。正気とか失ったら完全に魔獣みたいになるってことだろ?」
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