9,アンチュルーナ

7/138
前へ
/985ページ
次へ
「……は? 俺達が悪いの?」 「どう考えても、獣人のくせに隠して学園来てたそいつが悪いんじゃん」 ぼそぼそと呟きが聞こえるけど、アークが睨んだだけで黙り込む。それきりモモちゃんの泣き声だけが響く教室で、動いたのはスティオール先生だ。モモちゃんを軽々と抱き上げると、いつになく真剣な面持ちで全員の顔を見渡した。 「この中で、獣人に襲われた人はいるのか?」 「…………」 「レアリス・べニアに傷つけられた者。不快な思いをさせられた者。獣人として理性を飛ばしたレアリス・べニアを見た者。誰か一人でもいるのかと聞いている」 スティオール先生の言葉に、皆が目を見合わせる。いるわけないからな、そんなやつ。誰一人言葉を発しない教室で、スティオール先生は俺達に背中を向けた。 「周りに流されず、ちゃんと考えてみなさい。とりあえずは自習だ。ちゃんと席を直しておくんだぞ」 いつもよりずっと低い声でそう言い残すと、モモちゃんと一緒に教室を出ていくスティオール先生。気まずい空気が流れて数分、誰からともなく散乱した机を直しだす。だけどアークたちは動かなかった。怒りとか悔しさとか、真実を知った驚きとか。色んなものがごちゃごちゃになったような表情を浮かべている。それが特に色濃く浮き出ていたのはティリーだった。 「どうして……」 セリスに支えられながら立ち上がったティリーが、俯いたまま呟く。蚊の鳴くような小さな声だったけど、それは教室中に木霊した。 「どうしてあんな……あ、あんな酷いことが出来るんですか? 昨日までは普通の……クラスメイトで。とっても大人しいけど、そんなモモちゃんにみんな優しくて……」 「ティリー……」 歯を食いしばって俯くティリーの表情は、前髪に隠れて見えなかった。泣いてるのかもしれないし、我慢してるのかもしれない。そのうちにぽつり、ぽつりと言葉が飛び交いだす。 「そんなこと言ったってさ……。獣人だよ? ていうかあの子無口だし、もともと仲良いわけでもないし……。半分魔獣の子と今まで通りとか無理じゃん」 「ここにも書いてあるしさ、ほら。『理性の箍が外れやすい』って。正気とか失ったら完全に魔獣みたいになるってことだろ?」
/985ページ

最初のコメントを投稿しよう!

34569人が本棚に入れています
本棚に追加