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しかも相手があのルウナスって子だもんなぁ。よく知らねえけど、ティリーとの会話を聞いてた限りめっちゃ性格悪そうだったもんな。さすがのアークも心配なようで、腕組みをしてティリーを見る。
「あんまり緊張するな。せっかく暴発させずに魔法を発動出来るようになったのに、それすらも失敗するぞ」
「は、はい。そうですよね……」
「頑張ってねティリーちゃん! でも怪我はしないで!」
「ありがとうございます、セリスさん」
受け答えにも元気がないティリー。その表情は、夜に一人きりで特訓してたあの時の姿と重なって見える。ティリーが初めて声を荒げた夜。いっぱいいっぱいになりすぎて、少し気を抜けば爆発しそうな追い詰められ方をしてたあの夜は、そんなに遠い昔の出来事でもないから。
多分ティリー自身はまだ何も克服出来てない。予選を突破出来た喜びも、これから乗り越えなきゃいけないもっと大きなものへの足掛かりにすぎなくて。
そうやって色々考えるけど、頭を過るのは一つの事実だけだ。
あの夜から、ティリーが俺との間に壁を作っているという事実。
別に意図してるわけじゃないんだろうけど、ティリーの中で、俺に対して何か思うところがあるんだろうなっていうのはちょっと感じてた。ついでに言えばそれの理由もなんとなく分かってる。
多分俺がGランクだから。
GランクなのにGランクとしてなりきれていない、違和感たっぷりの俺が側にいるから。
「ティリー……」
遠慮がちに声をかけると、びくりと肩を震わせたティリーが振り返る。俺と目を真っ直ぐ合わせ、いつもだったらにっこり笑いそうなのに、今だけは真剣な表情で俺を見た。
「あの、フィアさん」
「ん?」
「私、頑張ります。頑張りますから……」
緊張はしてるけど、それ以上に強い覚悟を持ったような瞳。一切目を逸らすことなく、胸元で右手を握りしめる。
「見てて下さい、私の試合」
いつもみたいにどもっちゃうこともなく、はっきりと言ったティリーに釘付けになる。意外な言葉にびっくりして固まった俺だけど、ティリーの覚悟を理解した途端に口元が緩んだ。自然に笑えているのが自分で分かる。
「おう! 頑張れ、ティリー!」
心の底からそう思う。頑張ってほしい。あと一歩だと思うんだ。それさえ踏み出せれば大丈夫なはずだから。
伝わったかは分かんないけど、そこでようやくにっこり笑うティリー。そのあとアークやエリ、セリスに向かってぺこりとお辞儀をし、ステージへと駆けていく。その後ろ姿を見送る俺は、なんでか少し切なくなった。
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