13,たった一つで良いから

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だけどフィアさんのことまで言われたのは凄く嫌だ。上手く言葉にできないけどとにかく嫌で、胸の辺りがザワザワする。 「あれ、怒っちゃいました? あっはは! 貴女も怒ったりするんですね〜」 「ふ、ふざけないで下さい!」 「やだなぁ、ふざけてなんかいませんよ。まぁでも、何か気に入らないのなら私を負かしてからどーぞ?」 言いながら右手を前に出すルウナスさん。あまりに自然な動きに反応がついていかず、まずいと思った時にはもう魔法が発動されてしまった。きっと詠唱しなくても爆炎程度なら出せるんだ。 なら私は何が出来るだろう。スローモーションに見えた一瞬で必死に頭を回転させる。断空じゃダメだ。まだ上手に発動できる自信が無い。身体硬化もダメ。ルウナスさんの魔法の威力をまだ分かっていないから押し負けてしまうかもしれない。どうしよう、どうしよう。 ぶわっと冷や汗が吹き出て、どうすることも出来ないまま爆炎が目の前に迫る。結局防御の術が見つからず、私は両手で頭を抱えてしゃがみこむ。なんてみっともないんだろう。うっすら涙が滲むけど、ルウナスさんは続けざまに爆炎を撃つから、私は回避のためにひたすら走るしかなかった。 足元を狙われ、(つまず)き、地面に手を付きかけて、それでも立ち止まったらいけないと無我夢中で走る。だけどこれじゃダメだ。これじゃいつもの私と変わらない。 「ふ、風来の言の葉。流れて……詠え、風破……っ!」 萎縮しきった心臓で無理に走ったからすぐに息が上がってしまう。なんとか詠唱を紡ぎ、苦し紛れに突風を起こす。それは私に向かってきていた爆炎の軌道を変え、明後日の方向に飛んでいった。 「青藍の水面。(みなぎ)り、穿て。弾流!」 続けて水の初級魔法をルウナスさんの目掛けて発動させる。 「うぷっ!!」 それがルウナスさんの顔面にバシャりとかかった瞬間、私の息が止まった。本当に当たるとは思わなかった。水魔法だから怪我とかしない事は分かっているけど……こんな事を思っている時点で駄目だ。今は命中したことを喜ばなくちゃいけない。このチャンスを逃しちゃいけない。 私はまた走り、両腕で交互に顔や目を拭うルウナスさんに一気に近づく。さっき胸に鏡を付けていて思ったけど、これはそんなにしっかりと付けられているわけじゃなさそうだから。思いきり引っ張ればきっと、私の力でも奪うことが出来ると思う。そうしたらゆっくり鏡を壊せばいい。その一心で腕を伸ばすけど。 「きゃあ!!」 一瞬早く気付いたルウナスさんに腕を取られ、地面に叩きつけられる。 「はあ? さっきからなんなんですか? それ攻撃のつもり?」 呆れたように鼻で笑うルウナスさんに、当たり前だけどダメージは無い。
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