4人が本棚に入れています
本棚に追加
とはいえ、ただクラスメイトだっただけで特別親しかったわけでもなく、寧ろクラスメイトだったというのに(恋愛には奥手なあたしは)ほとんど会話を交わさずだったのだけど。
だから結局どこを受験するのかも人づてに聞いた噂話程度の非常に信憑性のないものだったわけだけど。でも、彼は学年屈指の秀才だったし……。
それに、願書を一緒に提出しに行ったおぼえがない。
しかし、確かに今彼は海高の制服に身を包み此処にいるのだ。受験したことは間違いない。
そんな……。あたし、本当に彼のこと何にも知らなかったんだ。
「……田宮?」
茫然とするあたしを心配したのか、中澤は控えめにあたしを呼んだ。
「え、あ、ああ……あたしも、一人ぼっちになっちゃうんじゃないかとか、心配してたんだよね!だから中澤いてよかった!!」
卒業式、あの日にもう、あたしは彼への片思いを終えたはず、だった。
卒業式なんてそんな昔のことなんかじゃない。
つい、数週間前のこと。
ああ、だって、そんな。
熱を帯びる顔。じんじんと疼く心。どきどきどきりと先刻から騒がしい心臓。
まだ、そんな、ちゃんと終わらせきれてない。
「もう1年間、よろしくな!田宮」
屈託なく笑った彼の顔が、直視できなかった。
あまりにもきらきらと輝いているものだから、眩しくて。
すき、スキ──好き。
こぽ、と。蓋をしたはずの恋情が、また零れだした音が、した。
最初のコメントを投稿しよう!