プロローグ

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「えいっ! やあっ!」  狭い畳の部屋に大人になりきる前のやや高い声が響く。  その発信元である少年は新聞紙で作られた剣を振り回していた。 「くらえ、怪人デスパイアー!」  えいっ! えいっ!  彼は頭の中で今朝テレビで見たばかりの敵と対峙していた。 全身が黒尽くめの大男。 その体はまがまがしい気で覆われていた。 『ぐぐぐ……おのれ、人間風情がごのわだしの邪魔をしおって……』  デスパイアーがいったん距離を取る。 『こうなったら仕方ない』  デスパイアーは手を大きく広げると、思いっきり地面に叩きつけた。 すると今まで何もなかった地面からにょきにょきと土でできた人形が現れた。 その数は十や二十ではくだらなかった。 『行け、ゴーレムたちよ!』  掛け声と共に少年に襲い掛かるが、しかしゴーレムの動きは遅かった。 これくらいの敵ならたとえ数が多くても今の彼には余裕で倒せた。  一匹、二匹、と確実に数か減っていく。 『はっはっはっ』  ゴーレムの数が半分ほどに減った時、不意にデスパイアーが高笑いを始めた。 「なにがおかしい!」  デスパイアーは不敵な笑みを浮かべた。 『これでお前はもう攻撃できまい』  そう言って背後からまだあどけない人間の娘を出した。 「くっ……卑怯な!」  デスパイアーは少年がゴーレムに引き付けられている隙に人質をさらったのである。 『卑怯? お前たち人間が何を言う。簡単に嘘をつき、自分が危なくなったらすぐに裏切る。人間こそが薄情で卑怯な生き物ではないか!』  デスパイアーが纏っている気がどろどろとその不気味さを増していく。  少年は抵抗もできずゴーレムたちになすがままに攻撃される。 体はもうぼろぼろだった。 「……それは違うぞ、デスパイアー!」  彼は気力を振り絞って立ち上がる。 「確かに人間は嘘をつくし、裏切ることもあるかもしれない」  でも、といったん区切ってから続けた。 「それでも人は人なしでは生きられない。そこには信頼関係がある。それはお前たちみたいに力で無理やり従わせることでは決して手に入らない!」 『黙れっ! 私は絶望したのだよ。地位や名声、そしてお金のためならどこまでも醜くなる人間に!』
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