Convivium

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 両開きの立派な扉の両脇で、黄金の燭台が備え付けられていた。本来五本で一つの灯りとしていた燭台には蝋燭が一本しか灯っておらず、相変わらず窓もない廊下は薄暗い。薄やみに浮かび上がったヴェニがゆっくりと振り向き、琥珀色の眼差しでひたとアーラを見据える。 「……アーラ様。本当ならば、あなた様をここへ連れて来ることは禁じられておりました」  ヴェニが、ゆっくりとした口調で吐き出すようにそう言うと。アーラの後ろから進み出たヴァードがヴェニと肩を並べた。 「こちらから先、わたし達は許可なき入室を禁じられております。扉はお開けしますが、ここからはアーラ様一人となります」 「えっ? ヴァードさん達は……?」  てっきり中までついてくるものだと思っていたアーラは、思いがけないヴァードの言葉に躊躇いを隠せない。いつもほんわりとした空気のヴァードが強張った表情を見せるほどのものが、この中にあるというのか。 「お気をつけ下さいませ、アーラ様。自室においでのクロイツ様は、何をなさるか想像もつきません」  ヴェニが脅しにしか思えないようなことをさらりと言って、心配そうに自分の手をきゅっと握り合わせた。ヴァードが今生の別れとでも言いたそうに涙ぐむ。人間らしくない彼女達の人間らしい憂いが垣間見えて、今何もこのタイミングで垣間見せなくても、とアーラの頬が引きつった。  一通りアーラの心配をし終えた彼女達は、また能面のような無表情へと切り替わる。ほぼ同時に彼女達は扉へ手をかけ、ぴったりと息を合わせて扉を開き始めた。 「あっ! あの、ちょっと!」  まだ一人で入室する覚悟のできていなかったアーラが慌てて二人を止めようとするも、彼女達はあっさりと扉を開いていく。扉の間がひと一人分通れるほどの隙間になると、二人はまた深々頭を下げて置物のように固まった。もはやアーラと目も合わせようとしない。この状態になってしまうと、アーラがいくら話しかけても一言も返さなくなってしまうのだ。苦情や弱音など全く聞かないという彼女達の姿勢の現れでもある。  扉を全開にしないのも、部屋の主を慮って光を最小限にしようとする彼女達の気遣い故にだろう。少しだけ覗いた室内に灯りらしいものは何一つなく、しんと静まり返っていた。思わず立ち尽くし、ゴクリと唾を飲み込むアーラ。
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