Convivium

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 そう言って自らの腹に手を当てるクロイツ。それはそうだ、あれほどまでに出血した怪我が数日かそこらで治る方が普通ではないのだから。 (サラさん……)  “あのシスター”呼ばわりされたことも、今は気にならない。記憶をあの夜へ飛ばしてみても、今は寂しいだけ。彼女がヴァンパイアハンターだろうとなかろうと、アーラにとっては関係ないのだから。 「……お前、まさかあのシスターの元に戻りたいなどと考えてはいまいな」  ギシッ、とベッドを軋ませて立ち上がったクロイツが、聖書を抱いて立ち尽くすアーラの目の前まで歩いてくる。近付いてくる彼との距離に緊張しながら、アーラは精一杯の反抗を目に込めてクロイツを睨む。 「そうだとしたら、何なのです。いくら城主様とはいえ、わたしの頭に干渉する権利はありません」  毅然と、恐れをはね除けて、堂々と宣言したアーラに。 「よく言う」  クロイツは薄く笑うと、いきなりフッと深く身体を沈ませ――  アーラの両膝の裏を軽く手で払う!  後ろへグラリと傾く身体。待ち構えていたクロイツの手がアーラの背中を支え、そのまま膝の裏に手を入れられ、あっさりとアーラはお姫様抱っこをされてしまった。ふわり、と浮かぶ視界。体重から解放された両足がぷらぷらと宙で踊る。アーラは真っ赤になって手足を振り回し、めちゃくちゃに暴れた。   「きゃっ!? やだッ、放して!」  だがすぐにそれは叶えられることになる。乱暴に、投げるようにベッドへ放られたアーラが、ベッドの柔らかさに身体を沈める。  すかさずクロイツが上に馬乗りになってくる。両腕を乱暴に片手で掴まえられ、足の上にはクロイツの足が乗っかり、どんなに頑張ってもアーラの力ではクロイツをどかすことはできなかった。 「黙れ」  言う彼の表情は、笑っていた。微笑んでいた。掴まえた獲物をなぶるように、楽しむように、冷たい空色の瞳がアーラの心までもをえぐっていくようにひたと見据えられていた。 「お前は、私のものだ。――アーラ」
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