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有無を言わせぬ、強圧的な言葉。
それはアーラの四肢までもを奪い、ちっぽけな自信や品位など簡単に吹き飛ばしてしまうほど、力強いもの。
けれども、それに屈してはいけない。
彼に屈してはならない。
何か、使命のような強い意志を胸の奥から感じる。そうだ、負けてはならない。アーラは全く動かない腕の先、指先をぐぐっと握りしめた。指先だけでも動いたことで、彼女の中の勇気が目覚めていく。屈するな、アーラ。目の前に居るのは、神の敵――
「……わたし、常々思っていたんですけれど」
少し近付いたようにも思う、二人の距離。それにも全く動じることなく、震えそうになる唇をわざと大きく開けて、一文字ずつをはっきり言い放ってやる。言われた方のクロイツは、手の中の獲物の可愛い抵抗を鼻で笑った。
「何だ、言ってみろ」
大仰に下される、発言許可。
許可もなければ発言権もないのかと、アーラの中の何かが叫ぶ。
従ってはいけない。頭を垂れてはならない。“あなた”だけは、この美しい獣に服従してはならない――!
「わたし……あなたのこと、大ッ嫌いです」
真っ正面から迎え撃つ、黄金色の刃に。
捕らえられない自由な氷の風が、貫かれた。
二人の間に――シスターとヴァンパイアの間に、目に見えない沈黙が降りてくる。
そして、ヴァンパイアは。
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