Convivium

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「ク…………フフフ、ハーッハッハッハッ!」  肩を揺らし、仰け反って、喉の奥を晒しながら高らかに笑い声を響かせるクロイツ。  それはまさに王者の風格。何者をも恐れない、強者の笑み。  目端にうっすら涙さえ浮かべ、ひとしきり笑ったクロイツはアーラの上からどいた。それは子猫のような弱々しいアーラの、必死の反撃に対する賞賛の現れであり、ほんのひと時の、移ろい往く風のような気まぐれであった。 「安心しろ。私もお前のような、女性の欠片も感じさせぬ娘など興味はない」  艶めく唇を憎らしいほどの美しさで笑みに歪めながら、クロイツが残酷に宣告する。  別に今更、そんなことを言われて傷つくアーラではない。自分に女性としての自信を持てないのは自覚しているし、シスターにとって女性の自我など邪魔なだけだ。  ただ、……苛つく。  この王のような男に言われると、傷つく。それが何故かは分からなかったが、アーラはむかむかとしたものを胸に抱えながらさっさと起き上がった。彼の香りが、男らしくもバラのまとわりつくこのベッドが、忌々しい。  早足で部屋の出口に向かうアーラを、クロイツはくすくす笑いながら見送った。  アーラが、目の前を横切る瞬間。  クロイツの長い腕が素早く伸びてきて、アーラの細い腰を抱いた。それはまさに、一瞬の出来事。グイッと力任せに引き寄せられる力に対抗出来なくて、アーラはクロイツの腕の中に戻ってきてしまう。  触れる体温、バラ混じりのムスクの香り。何より、首筋に感じる――――吐息。  五感の全てでクロイツを感じてしまう。彼の存在感を押し付けられる。後ろから抱きしめられて、身動きも取れない……! 「もしかして……」  すぐ真後ろ、耳の後ろから聞こえる、彼の低い声。  どこも、何も反応したくないのに、それだけで心が落ち着きをなくす。恐れとは違う心臓の鼓動が、どくんどくんと鼓膜を揺らす。 「何か、期待したか?」
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