Convivium

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 ぺろり、と。  それはまるで猫のように、生暖かくてぬめっとしたものが耳の端に触れていく感触。  全身の肌がぶわりと音を立てて鳥肌になっていく気がした。恥ずかしさと驚きで心臓が止まってしまいそう。顔は首も耳も真っ赤になって、今にも倒れそうだ。 (ななな、なめたぁぁああ……!?)  嫌で嫌で仕方がないのに、背筋へ走る甘い痺れが止まらない。  そんな熟した林檎のアーラを面白がって、クロイツが腕にそっと力を込めた。密着する、肌と肌。それがいくら洋服越しとはいえ、否応無しにクロイツの体温が伝わってきて。アーラはますます混乱のるつぼに嵌っていった。  ――舐めた。耳を。ぺろって……!  不平不満をぶちまけて、クロイツの腕の中で暴れることすら忘却の彼方にいってしまった。「舐めた」とうわごとのように繰り返すアーラによほど満足したのか、ご満悦な笑みを浮かべてクロイツはそっと離れる。腕の支えを失った瞬間、アーラは糸の切れた操り人形のようにその場へぺたりと座り込んでしまった。 「そうそう、お前に返さなければ」  そんなアーラを空気のように扱って、嬉々としたクロイツがベッド脇の小さな棚に近付いていった。しゃらり、と鎖のような音がしたが、それでもアーラはぶつぶつと、なめたなめたと呟いている。  クロイツは手の中のものを持って、アーラの真後ろにしゃがみ込んだ。アーラの眼前に、クロイツの手が迫った。  そして未だ呆然と魂を口から飛び出させているアーラの首元に、ひやりとした冷たいものが触れる。 「――……! これって……」  あのクロイツに攫われた夜、『黒い森』で無くしてしまったと思っていた、黄金のロザリオ。母の形見。  慣れた重みにようやく我を取り戻したアーラが、目を見開いてロザリオを手にする。森の中でもみくちゃになったのか、ロザリオの端の塗装が剥げ、下地の銀色がうっすら見えてしまっている。それでも無事に戻ってきた事実が、アーラの胸を嬉しさでいっぱいにさせた。  振り返ったアーラの視線を受け止めたのは、驚くほど優しく和らげられた氷の瞳。 「これを、探していたんだろ」
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