一章 ブラッドタイプL

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昶が二年一組の教室に入ると、すでに大半の生徒がいた。 あくびをしながら自分の席に座り、そのまま机に突っ伏する。 うとうとし始めたとき、肩を誰かにたたかれる。 気だるげに顔をあげると、そこには音操がいた。 「これ、貸してほしいって言ってたよな。確か」 音操が持っているCDを一瞥して、昶の頭は一気に覚醒する。 「おお、そうだった。いいのか?」 それを受け取り、音操に聞いた。 親友はにっこりと笑って、制服のポケットから小型プレイヤーを取り出して言う。 「ああ。もうこっちに入れてあるから、平気だよ」 昶は礼を言って、机のわきにかけてある肩掛けバッグの中に、そのCDを入れた。 そのあと、少し唇をとがらせて不満をぶつけてみる。 「あのさ。こういう大切なことはもっと前に言えよ。もうちょっと遅かったら、忘れてたぜ」 しかし、音操は笑ってさらりと言ってのけた。 「大丈夫だろ。俺が覚えてるから」 その言葉に昶は、それもそうかと逆に納得してしまった。 その時、二人に声をかける女子生徒がいた。 「あっ、昶だ。へえ、珍しいね。教室にいるなんて。――おーい、綾ぁー。昶いたよー」 その女子生徒は、黒縁眼鏡をかけ、背中の中ほどまで伸ばした黒髪を二つに結んでいた。名前は五十嵐信濃という。 直後、ものすごい勢いで教室に駆け込んでくる女子生徒がいる。 「いたぁーー! このサボリ魔・昶!」 『風紀委員』という腕章をつけた鈴野綾は、大きな足音を立てて歩いてきて、びしっと昶に指をさした。 「ここにいるなら、いるって言ってよ! いろんなとこ探しちゃったじゃないっ」 しかし昶は机に頬杖をついて、あさっての方向を向く。 「別にどこにいたっていいじゃんか。つーかサボリ魔って――」 「よくないっ!」 昶の言葉をさえぎり、綾は叫んだ。 「そもそもあんたは――」 そのまま続けようとしたが、教室の前のドアが開き、担任が入ってきた。 「はーーい、授業始めるぞー」 千原藍子は教壇に立ち、昶たちの方を世界史の教材で指し示す。 「そこ、さっさと座れよーー」 綾が恨めしそうに昶を見て、一番前の席に戻っていく。 信濃は、そんな二人を見比べた後、苦笑めいた笑みを浮かべて、自分の席に向かっていった。 そんな女子二人を見送り、音操も窓際の一番後ろの席に座った。 「んじゃ、始めまーす。きりーーつ」 がたがたと、生徒たちが立ち上がる音が響いた。    ――☆――☆――☆――
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