2人が本棚に入れています
本棚に追加
昶が二年一組の教室に入ると、すでに大半の生徒がいた。
あくびをしながら自分の席に座り、そのまま机に突っ伏する。
うとうとし始めたとき、肩を誰かにたたかれる。
気だるげに顔をあげると、そこには音操がいた。
「これ、貸してほしいって言ってたよな。確か」
音操が持っているCDを一瞥して、昶の頭は一気に覚醒する。
「おお、そうだった。いいのか?」
それを受け取り、音操に聞いた。
親友はにっこりと笑って、制服のポケットから小型プレイヤーを取り出して言う。
「ああ。もうこっちに入れてあるから、平気だよ」
昶は礼を言って、机のわきにかけてある肩掛けバッグの中に、そのCDを入れた。
そのあと、少し唇をとがらせて不満をぶつけてみる。
「あのさ。こういう大切なことはもっと前に言えよ。もうちょっと遅かったら、忘れてたぜ」
しかし、音操は笑ってさらりと言ってのけた。
「大丈夫だろ。俺が覚えてるから」
その言葉に昶は、それもそうかと逆に納得してしまった。
その時、二人に声をかける女子生徒がいた。
「あっ、昶だ。へえ、珍しいね。教室にいるなんて。――おーい、綾ぁー。昶いたよー」
その女子生徒は、黒縁眼鏡をかけ、背中の中ほどまで伸ばした黒髪を二つに結んでいた。名前は五十嵐信濃という。
直後、ものすごい勢いで教室に駆け込んでくる女子生徒がいる。
「いたぁーー! このサボリ魔・昶!」
『風紀委員』という腕章をつけた鈴野綾は、大きな足音を立てて歩いてきて、びしっと昶に指をさした。
「ここにいるなら、いるって言ってよ! いろんなとこ探しちゃったじゃないっ」
しかし昶は机に頬杖をついて、あさっての方向を向く。
「別にどこにいたっていいじゃんか。つーかサボリ魔って――」
「よくないっ!」
昶の言葉をさえぎり、綾は叫んだ。
「そもそもあんたは――」
そのまま続けようとしたが、教室の前のドアが開き、担任が入ってきた。
「はーーい、授業始めるぞー」
千原藍子は教壇に立ち、昶たちの方を世界史の教材で指し示す。
「そこ、さっさと座れよーー」
綾が恨めしそうに昶を見て、一番前の席に戻っていく。
信濃は、そんな二人を見比べた後、苦笑めいた笑みを浮かべて、自分の席に向かっていった。
そんな女子二人を見送り、音操も窓際の一番後ろの席に座った。
「んじゃ、始めまーす。きりーーつ」
がたがたと、生徒たちが立ち上がる音が響いた。
――☆――☆――☆――
最初のコメントを投稿しよう!