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「あのう」
彼女は部屋に入って母親に自分の身の回りを整えてもらい、看護師が部屋を出て数分してから、少し及び腰で桜井に話しかけた。
彼は声に反応して少しだけ顔を上げるそぶりを見せたが、どうもやはり、歓迎した顔色ではない。
それを感じ取ったのか、彼女はそれ以上彼には近づけず、両手でへりを持ってベッドから半身乗り出した姿勢を崩せなかった。
「君が新しく入ってきた患者かい」
間を空けて、桜井は返事をした。
「あ、はい。小波早紀っていいます。中学一年生です」
軽くしどろもどろした対応と声色から、桜井は小波がそれぐらいの年齢であることは確かだと感じた。
「桜井さん……ですよね」
「ああ」
「よろしくお願いします」
「ああ」
話すときも聞くときも、小波はじっと桜井のほうへ目を向けていた。
桜井の目は包帯で隠れているが、耳はあらわになっている。
声のする方向ぐらいは分かりそうである。
しかし、顔は小波のほうへ向いていない。
話し言葉もそっけない。
彼女の目には彼が無愛想を決め込んでいるように映り、それが気になったのだ。
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