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明くる朝、桜井は無音の部屋の中で眠りから醒めた。
看護師がまだ朝食を運んでこない時刻の部屋は暗く、日もまだその全身を見せきっていない。
まだ眠気の残っている様子の桜井は上半身を起こすのも少し辛そうであったが、再び床に着こうとはせず、両手を使って体を起こすと、かすかに風の音が聞こえてきたほうへ顔を向ける。
そこでは、蜘蛛の巣状の模様の入った窓ガラスが、病人の暮らす空間と病人の見る景色とを隔てていた。
もっとも、盲目である桜井にとってそれはただの冷たい壁とそう違いはない。
桜井は背後を一瞥するように振り返り、周りに聞こえるくらい大きく深い息を吐いた。
目には見えなくとも、昨日の来院者の存在を確かに感じているようだった。
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