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桜井の起床から数分が立つと、病室の扉を叩く音が聞こえ、次いで看護師が入室してきた。
それを感じ取った小波はすぐにカーテンを閉じ、布団を頭のてっぺんまで被りこんだ。
そのときのカーテンがレールを走る音を、桜井は敏感に感じ取った。
だが、看護師の来室のせいもあってか、深くそれについては考えない様子だった。
「失礼します。お早うございます桜井さん」
「お早うございます」
看護師の挨拶に桜井はすぐさま返答し、仕切りのカーテンを手探りで探り当て、さっと引いて顔を見せた。
しかし、小波の返答はない。
「小波さん、お早うございます。小波さん。小波早紀さん」
桜井は小波のベッドのほうへ顔を向けると、じっとそのまま動きを止めた。
彼女に向け何かを念じているようだった。
小波がようやく返事をしたのは、彼女が深く被った布団を看護師が捲って剥ぎ取った後であった。
小波はあたかも今目を覚ましたかのように伸びをして、はっきりと一言、おはようございますと言った。
桜井はそのやり取りに、また一つ溜め息をこぼした。
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