1.境遇

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 桜井の起床から数分が立つと、病室の扉を叩く音が聞こえ、次いで看護師が入室してきた。  それを感じ取った小波はすぐにカーテンを閉じ、布団を頭のてっぺんまで被りこんだ。  そのときのカーテンがレールを走る音を、桜井は敏感に感じ取った。  だが、看護師の来室のせいもあってか、深くそれについては考えない様子だった。 「失礼します。お早うございます桜井さん」 「お早うございます」  看護師の挨拶に桜井はすぐさま返答し、仕切りのカーテンを手探りで探り当て、さっと引いて顔を見せた。  しかし、小波の返答はない。 「小波さん、お早うございます。小波さん。小波早紀さん」  桜井は小波のベッドのほうへ顔を向けると、じっとそのまま動きを止めた。  彼女に向け何かを念じているようだった。  小波がようやく返事をしたのは、彼女が深く被った布団を看護師が捲って剥ぎ取った後であった。  小波はあたかも今目を覚ましたかのように伸びをして、はっきりと一言、おはようございますと言った。  桜井はそのやり取りに、また一つ溜め息をこぼした。
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