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彼女は足の手術を受けに今の病院に転院してきた。
数日後にその予定日も迫っている。
医者の先生から比較的大きな手術になると説明をうけていたが、小波はどうせ麻酔で気を失っているのだろうと笑って、話を聞いた後もそれほど緊張の色を見せていなかった。
その様子を見た担当医はあまりに楽天的過ぎる彼女のその態度に不安を危惧する言葉を親に伝えた。
本来、術者にも患者にもそれなりの覚悟が必要な手術なのである。
だが、娘を変に不安がらせることを嫌う親の意向もあり、それは小波本人には伝えられなかった。
朝食が終わる頃、小波は笑顔と気さくな口調で看護師と話をしていた。
彼女は生来からのお喋り好きのようで、一度会話を交わせば質問や話題が次々に口から湧き出てきた。
若い女医さんとの会話は、さも仲の良い姉と話すように弾み、彼女の言葉は明るさの他にそこに通りかかった休憩中の別の看護師さんの足を止めるほどの不思議な引力をも持ち合わせていた。
時折聞こえる小波の笑い声を聞いて、桜井は彼女に対する何かしらの感情をつのらせているようだった。
面持ちからしてそれは決して好意的な感情ではない。
もっとも、桜井はカーテンを締め切っていたため、誰にもその様子を悟られることはなかった。
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