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橙の空が黒い夜空に押し流され、小波にとって二度目の就寝時刻が迫ってきた。
昨日桜井が小波の話を無視して以来、彼らの間に会話は一切なかった。
自由時間にも桜井は横になって小波に背を向けていたし、小波はカーテンの開く機会を見計らってしきりに彼に目配らせをするなど会話の糸口を懸命に探っていたようではあるが、どうも桜井のまるで鉄壁と言わんばかりの無視工作を相手にはお手上げといった様子であった。
とはいえ、もとより彼女の行動は彼に見えていないのだから、当然といえば当然の結果である。
小波もそれは承知している。
実は、小波は今日一日を昼間の明るい会話から想像されるほど晴れやかな気分で過ごしてはいなかった。若い女医や看護師と話をしているときなどには感じさせなかったが、何もすることがなくなると、終始決まりが悪そうな表情をしていた。
その気分に対してさらに苛立ちをつのらせ、悪循環に陥る。
それはまるで、前に駄目と言われたせいで大好きなお菓子を買って欲しいと親に言い出せない子どもの様子に似ていた。
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