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夜がやってくる。
病室には桜井と小波の二人。時刻はまだ消灯には時間がある頃。
部屋は小波が若い女性向けのファッション雑誌をめくるかすれた音が不定期にするだけで、静かな夜に桜井が奏でる音はない。
一人きりだったころ、桜井も独り言とはいえ無口ではなかった。
意味なく指を組んだりして指遊びをしたりもしたし、歌を口ずさんだりもした。
しかし桜井は今日一日、そのようなことを一切しなかった。
小波という人物は、その部屋にいるだけ、存在するだけで、彼の一見無意味な、しかしその実彼にとって重要であったかもしれない自由を、無意識に奪っていた。
あるいは意識していたとしても、何もできない状態であったであろう。
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