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看護師の言葉を無視したしばらく後、桜井は手探りで布団の端を探し、胸の辺りまで引き上げた。
次いで、砕氷のような模様の窓へと顔を向ける。すると、それを見ていた看護師は笑顔を作った。
「今日は、生憎ながら雨が降っていますね。いつもなら夕日が綺麗な時間なのですけれども」
窓の外は二月の冷たい雨が降り続いていた。
室内には断続的な雨音がかすれて響いている。
模様のない窓から見える景色はというと、建物に挟まれた人通りの少ない道路に霞がかかり、地平線を見渡せばすぐに先は見えなくなる雨模様だ。
どんな人でも、看護師の言葉を受けてこの景色を見れば、心からではなくとも憂鬱の言葉の一つや二つがこぼれてもおかしくはない。
それでも、やはり桜井は無言だった。
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