1.境遇

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 桜井は片足にギブスがつけられベッドから自力で下りられない。  そんな怪我人がすることといったら、窓の外を眺めたり、テレビや雑誌を見たりといったことしかない。  しかし、桜井はそれもできない。  桜井は両目の視力を失っているのだ。  先日、桜井は自らが通う大学からの帰り道の途中、路上駐車していた車の陰から反対側の歩道へ渡ろうとして、死角からスピードを出して走ってきた軽自動車に跳ねられた。  命に別状はなかったが、事後に病院にて、両視力が完全になくなっていることが医師により確認された。  軽自動車の割れた窓ガラスの破片が眼に刺さって眼球を破損してしまったようなのだ。  さらに、彼は同時に右足の骨折という重傷も負ってしまった。
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