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この浅田という子が俺の彼女らしい。
自分でも疑ってしまいたくなる。こんなに可愛い子が俺の彼女だということに。
でも事実を認めざる追えなかった。この子は俺が入院している間、毎日と言っていい程にお見舞いに来てくれたのだから。
それに……言葉では表せないけど彼女といると落ち着いていた俺がいた。
きっと頭の中では忘れていても、身体は何かを覚えているんだろう。
「何が浅田さんだよ? 理恵ちゃんはお前の彼女なんだ。他人行儀過ぎ」
「いや……、分かってるんだけどさ。俺、全然彼女のこと覚えてなくて……」
戸惑いながら俺は横山にそう返した。本人を前にこんなことを言うのは失礼かもだが、本当に覚えていないので仕方ない。
ただ……俺が入院していた時に身に付けていたこのネックレス。
これは浅田が俺にくれたプレゼント。それは話をしていて知ったこと。
「いいよ横山。勇貴は分からないって言ってるし」
「でも……。まぁ良いか。しかしお前も薄情な奴だよな? こんな良い子のことを忘れちまうなんて」
忘れたくて忘れたんじゃない。俺は声に出してそう言いたかった。
でも言えなかった。言ってしまったら罪悪感が重くのしかかってしまいそうで……。
「勇貴は気にしないで。慌てたところで思い出すことなんて出来ないんだし」
俺に気を使って理恵は笑ってそう言った。
確かに俺は慌てていた。彼女のことを思い出したくて。
俺も辛いが、何より浅田が一番辛いと思うから。
俺の思い出の中に彼女はいない。待たせてしまっているだけ。
その罪から俺は逃れたかったんだ。
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