それぞれの門出

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『断片記憶障害』 これが俺に伝えられた病気の名前。なんでも記憶喪失の一種らしい。 部分的な記憶が抜け落ちてそれを俺は忘れている。 しかも残酷なことにその記憶とは俺と浅田さんが恋人だった時の記憶。 出来過ぎた偶然なのか……それとも神様から天罰でも喰らったのか……。 どうしてそんな大切な記憶を無くしてしまったのだろう。 俺はそれを凄く後悔している。 家に帰ってから卒業アルバムを開いてみた。見慣れた顔が並んでいた。もちろんその中には彼女もいた。 俺の隣の席に座って……。ページを進めていくと彼女と過ごした時間が写っていた。 文化祭、卒業式。楽しそうに皆と写ってる。その中で目を引いたのは俺が浅田さんの肩に腕を回している写真だった。 「本当に恋人だったんだな……」 俄かに信じられない俺がいた。でもそれは真実だったんだ。 机の引き出しにしまってある銀のプレートのネックレス。 そこには文字が刻んである。 “YOU are in my heart all the time” 直訳して“あなたはいつも私の心の中にいます”か。 なんて暖かい言葉なんだ。でも俺はそれすらも台なしにしてしまった。 罪悪感が胸を埋める。なぜ思い出せないのか。なぜ失ったのか……。 「……馬鹿野郎。こんなに苦しいなら……全部忘れてしまえば良かった」
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