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だが、その腕前は確かなもので、蔦十が売り出したい、と密かに交渉し続けるが、信介本人は、絵で一本立ちする気が無い為、のらりくらりと交わしているのが現状だ。
なまじ、金に困らない程度の暮らしぶりなだけに、蔦十もままならない、と嘆いていた。
「それじゃ、男雛を届けに行こうかねぇ」
「誰が行く?」
信介が問う。顔見知りの信介が持っていくのは、厄介になりかねない。
男雛が誰からの贈り物なのか、問われても名前も顔も知らぬ男としか言えないからだ。
最も夫婦雛だから、言い交わした相手であり、おこんに心当たりが有ると考えるべきだ。しかし、心当たりが有るならば、尚更、相手の事を根掘り葉掘り訊かれるのも厄介だった。
顔見知りの信介だ。もしかしたら、相手とも知り合いかもしれない。と思われるやもしれない。
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