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徳さんと呼ばれたのは、三十年、この東屋の主として働いていた隠居・徳市。自身に子が無かった為、養子縁組で得た跡継ぎに店を譲り、気楽な隠居生活を送っている。
「いや男女の逢い引きに野暮をするんじゃ悪いからな」
にやりと笑うと、とても料亭の主には見えない。若ければ三下か武士であれば、無頼の浪人というところ。
「冗談言ってないで、用件を言っとくれ」
呆れ口調で桃太郎が促すと、徳市も真顔になって中に入り、障子を閉める際に周囲を見回す。
その動作には、油断や隙を寄せ付けない気迫が有った。
「裏の祠に文が有った」
桃太郎と信介は、いずまいを正して徳市の持つ文を見た。
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