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東屋の裏手にあるお堂に二人の亡骸を丁寧に埋葬し、それから数年。もう助けてくれる人は居ないと知った町の衆は、それでも何かあると東屋の裏手のお堂に駆け込む。そんな日々が続き、徳市もだいぶ身体に異変を感じて、床に着く事が多くなっていた頃。
それは夏の暑い日のことだった。
朝から大騒ぎの東屋は、女将のおゆうがずっと戦っている。痛みを堪えて、いきんでいきんでいきんで。
「ほら、もう一踏ん張りだよ。ああ、頭が出て来た」
産婆の声が床に着いた徳市の離れにも届く。やがて赤ん坊の元気な泣き声が響いて来た。
「おお、おお。元気な男の子だこと。よく頑張ったな、女将さん」
産婆の声に、徳市はひっそりと涙を流す。血は繋がってなくても孫が生まれた瞬間だ。少しして与一の声も聞こえて来た。随分と泣いているようで声が震えている。そうしてしばらく。
「おとっつぁん、生まれたよ。男の子だっ。おとっつぁんの孫だよ!」
徳市は与一に抱かれた男の子に手を伸ばす。触れた赤ん坊は柔らかくて温かい。
「ああ。ああ。おゆうさん、良く頑張ったな。いい子だ」
「おとっつぁん、寝込んでいる場合じゃないですよ。この子の世話を焼いて下さい」
与一に言われて徳市は笑った。どうやらまだまだそっちにいくことは出来ないみたいだよ、伸介さん。桃太郎。
(了)
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