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-恭介視点-
咲矢を拾ってからだいぶたつが、
咲矢の様子が最近おかしい。
俺が話しかけても目をあわせようとしない。
むしろ気まずそうな顔で視線をそらす。
俺、なんかしたか?
いつかどこかへ消えてしまうのではないかと心配になる。
なにか悩みでもあるのか。
…それとも俺といるのが嫌になったか。
何度かタイミングを見計らって
きこうと思ったが、いざ言おうとすると
口から言葉がでなかった。
俺のそばからいなくなる前に…。
早く何とかしないと…。
でも遅かった。
忘れ物を取りに行くといって
学校に戻った咲矢は夜になっても
帰ってこなかった。
焦って仕方なかった。
「やっぱ、ついていけば良かった…っ!」
今は気まずいとか関係ない。
とにかく連れ戻そう。
俺の頭にはそれしかなかった。
もう失いたくはなかった。
大切な人を…。
絶望に満ちた顔をしているあいつを
初めてみたとき、昔の自分と重なった。
中学のとき俺はいじめにあっていた。
誰も助けてくれない。
先生も見て見ぬ振りだった。
親に相談をしようとしたが、
仕事が忙しいという理由で話を
きいてくれなかった。
どこにも居場所がなかった。
高校にあがるとき強くなろうと
思った。
いじめにあわないように。
居場所をつくるために。
同じ中学のやつらがいかない
遠い高校を選んだ。
遠いから一人暮らしをすることになった。
気が楽だし、それでよかった。
喧嘩を売られて
やけくそで喧嘩をかう。
それを繰り返してたらいつの間にか
一目置いた存在になっていた。
怖がるやつもいたが、
俺をしたってくれた。
でもなんかむなしかった。
俺自身を好きというやつはいなかった。
外面だけ見ているやつばかりだ。
いつものように喧嘩をしてると
あいつがいた。
喧嘩相手はそいつを人質にとる。
「ちっ…。めんどくせぇ…。」
小さく呟く。
どうするか考えているとあいつは
相手の足を踏みつけて、とどめに
急所に蹴りをいれる。
…なんつーやつだ…。
自然と笑みがこぼれた。
でも、あいつは居場所がないといった。
だから連れて帰ってきた。
あいつの中の希望になりたかった。
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