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「……けどまあ。実際、ここまで手の込んだ人払いって必要なのか? そりゃ主催側からすれば色々立場とかあるんだろうけど」
その実、半径ニキロメートル。
その範囲における全ては、このビルを隠すためだけに作られた迷路である。交通規制、道路整備その他諸々の壁は街の中にジグザグの楕円を描き、近づく人間をそれとなく排除する。
口コミで拡がる民衆の噂話は掌握出来ないということだろうか。日本を牛耳る権力者どもだが、全てを意のままに、とはいかないらしい。いや、その慎重な姿勢こそ、長生きする秘訣なのかもしれないな。ぜひとも見習いたい。
……いや待った、嘘、やっぱり見習いたくない。保身のために財産を使うなんてまっぴらだ。そんなことに金を使うくらいなら潔く散る。僕はもともと長生きなんてするつもりはないし。するつもりがなくても長生きくらいするだろう。……たぶん。
「──で、ミサキ先輩どっちから行きます? 裏? 正面? あ、あとわたしの《紫電》と《延珠》を大至急返還してくださーい。わたしには聞こえてますですよ。二人の悲痛な叫びが。『おおぉぉうぅぅぅ……!! 血が吸いてぇぇ……!!』ってね!」
やる気充分、ガラス張りの自動ドアの前でシャドウボクシングに興じていたモンキーが、トコトコやって来た。今回のお仕事の話──と見せかけた個人的要求。当然のごとくスルー。
「いやいや、なんでこんな格好で来てるのか考えなさい。ユリカ、お前に刃物持たせると気分次第で切りつけるだろ。今日は出来る限り面倒を避ける予定です」
「えー、なにそれつまんない!」
うがー、と威嚇なのか抗議なのかよく分からない行動をとるユリカ。
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