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重ねる面影 side,廉
この病院に入院して、二週間が経った。
発作がたまに起きるようになってしばらく眠り続けていたが、今は状態が回復している。
ただ、俺は薬と点滴が相変わらず嫌いだった。一度だけ、副作用で辛い目にあった事もある。
けれど、今の自分に拒む理由がない。
いくら嫌いでも、受け入れて服用するしか道はないのだ。
「……レン。苦い?お薬」
「う~ん。ちょっと嫌いかな」
「私も苦手」
「そっか……」
俺が集中治療室から個室の病室に戻されたため、アンジェが遊びに来ていた。
だが、アンジェは点滴のスタンドを支えにして立っていたのでどうしたのか訳を聞いてみた。
「…アンジェ、その点滴どうした?」
「ん…。昨日ね、お薬の副作用で気持ち悪くなって戻しちゃってさ。えーよー剤っていうの打ってもらってるの」
「………大丈夫か?」
「大丈夫大丈夫っ! 慣れてるから」
初めて会ったあの日、アンジェに何故ここに入院しているのか俺は聞いた。
彼女は小児ガンを患っているらしく、長い間この病院で入院生活をしていたという。
アンジェが投与されている薬は、おそらく抗がん剤だろう。
エレメンタルスクール、いわば日本で言う小学校に今まで通っていたが、症状が悪化したため登校が難しくなり、病院の院内学級で勉強していると言っていた。
アンジェが流暢な日本語を話せるのは、父親が日本語教師でよく教えてもらっていたからだと本人が自慢気言っていたのを覚えている。
日本語を完全に会得していて、おまけに関西弁を喋る始末だ。
ただ少し調子が悪いのか、顔色があまり良くない。
俺はアンジェにソファーに座るよう促して水を飲んだ。
「……レン」
「ん………?」
アンジェに声をかけられ、顔を上げた。
けれど一瞬、俺の目に見えたのは
ーーーーー『廉くんっ!』
「………ゆ、め……?」
「レン…?ユメって誰?」
「あ、いや……」
錯覚かと思った。
けど、無邪気に笑っているところが、
……優芽にとても似ていたから。
「……アンジェ」
「ん?」
「俺な、ここに来る前……、大切にしてたものを捨ててきたんだ」
アンジェに心を許した俺は、優芽の事を話した。
優しくて笑顔が素敵だった事。
思いやりがあって、部活をしていた頃はよく差し入れを持って来てくれた事…。
いつしか、俺のそばに優芽がいる事が当たり前になっていた。
いや。優芽という大切な存在がいた事が偶然であって、……奇跡だっんだ。
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