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「美乃谷、お前………っ!」
先輩は言葉を失って、私を見つめる。
廉くんはどうやら、先輩に自分が心臓病である事もアメリカに行く事も、話してなかったらしい。
今じゃ元カノになった私が、元カレの話を先輩にしなければならないほど皮肉なものはない。
先輩の目に、私の顔はどう映っているだろう。
その瞬間に、私の体が先輩に抱き締められていた。
いきなりの出来事に、思わず動揺してしまう。
「せ、せんぱ………っ」
「………っと」
「…え?」
「……ずっと、辛かったんだな…」
「…………っ!!」
廉くんが言っている訳ではないのに、先輩の一言が優しく癒やしてくれている。
不思議と、涙が溢れていた。
「先輩、どうして……?」
私がそう聞くと、先輩は濡れた瞳を向けながら答える。
「…俺は、ただ純粋にお前の笑顔が好きだった。いつの間にか、美乃谷に夢中になってたんだ。けど今の美乃谷には、陵宮がいる。あいつにとって、美乃谷はかけがえのない存在だったから」
穏やかなその声は、叫びにも聞こえた。
廉くんに大事されていたのに、先輩を放っておけなくなるのは何故だろう。
お互い迷っている。
この迷宮から永遠に抜け出せなくなると、私は感じていた。
「美乃谷。しばらくこのまま、こうしててもいいか…?」
「……先輩…」
廉くん。
あなたは、異国の空の下でどうしてるの?
無意識に、廉くんの気持ちが変わらないようにと祈っている自分がいた。
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