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何も変わらない。
キッチンのスペースにはコンロがあって、水道があって。
何も変わらない。
水道の横の、冷蔵庫を除いて。
他の家具、物の配置、壁の汚れさえも変わらないのに、冷蔵庫だけが違う。
なぜ先程の自分は気付かなかったのかと、後悔に近い不思議が湧いた。
私の頭の中にある我が家の冷蔵庫は白。
しかし私の視界の中心を陣取るそれはどうだろう。
色素は薄いが、紛れもない、灰色だった。
形は同じ。
色だけが違う。
間違いのない、違和感。
言い訳をするなら、だからこそ気付くのに時間がかかったのかもしれない。
ただ、問題は私の見落としじゃない。
なぜ冷蔵庫が変わっているのだろう。
やはり夢なのかとも思ったが、それにしては一向に私は目覚めない。
―――瞬間のことだった。
それはあまりにも刹那の衝動だった。
開けたい。開けなければ。
薄い灰色の、ぬるい人工物の扉を、開け放したくなった。
私は、なったこともない開拓者になった気分だった。
冒険家や、探検家になったような感覚だった。
この不吉な予感を私に与える計り知れない謎が、私に紐解かれるのを待っている―――
亡霊のように、私の右手が、その違和感の扉へと伸びた。
開ける。開けよう。さあ。
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