refrigerator

3/6
前へ
/6ページ
次へ
何も変わらない。 キッチンのスペースにはコンロがあって、水道があって。 何も変わらない。 水道の横の、冷蔵庫を除いて。 他の家具、物の配置、壁の汚れさえも変わらないのに、冷蔵庫だけが違う。 なぜ先程の自分は気付かなかったのかと、後悔に近い不思議が湧いた。 私の頭の中にある我が家の冷蔵庫は白。 しかし私の視界の中心を陣取るそれはどうだろう。 色素は薄いが、紛れもない、灰色だった。 形は同じ。 色だけが違う。 間違いのない、違和感。 言い訳をするなら、だからこそ気付くのに時間がかかったのかもしれない。 ただ、問題は私の見落としじゃない。 なぜ冷蔵庫が変わっているのだろう。 やはり夢なのかとも思ったが、それにしては一向に私は目覚めない。 ―――瞬間のことだった。 それはあまりにも刹那の衝動だった。 開けたい。開けなければ。 薄い灰色の、ぬるい人工物の扉を、開け放したくなった。 私は、なったこともない開拓者になった気分だった。 冒険家や、探検家になったような感覚だった。 この不吉な予感を私に与える計り知れない謎が、私に紐解かれるのを待っている――― 亡霊のように、私の右手が、その違和感の扉へと伸びた。 開ける。開けよう。さあ。  
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加