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「秋だから、紅葉狩りでもいこーよ」
とあたしは彼を誘った。仕事で忙しい彼と久々のデート。紅葉の木の下で待ち合わせ。約束の時間より10分早く行ったのに、彼はすでに来ていた。あたしを見て、ひょいっと片手をあげる。
マスクをしていたので綺麗な顔がどんな表情をしていたのか分からなかった。
「早いね。まだ10分前なのに」
あたしが言うと彼は
「うん」
と一言。相変わらずクール。
「行こうか」
どちらからともなく手を繋ぐ。大きくて暖かい彼の手。
「風邪ひいちゃったの?」
あたしは彼のマスクを指差して訊ねる。彼は
「うん。酷くはないんだけどさ …お前にうつしたら困るだろ」
とちょっと恥ずかしそうに言った。
「ありがとう」
あたしは微笑む。
「…別に」
彼はぶっきらぼうに答えた。握った手が熱い。あたしは嬉しくて、一人で笑った。
「な、なんだよ。笑うなよ」
そう言う彼の顔はマスクで隠れていても真っ赤だった。
まるで綺麗に色づいた紅葉みたいに。
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