序章

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(ああ、今日も遅刻だ) 琴音は電車から降りると携帯画面に視線を移した。 最近の彼女はいつもこうだ。 バイトのシフト30分前まで部屋でゴロゴロし、ギリギリになって慌てて家を飛び出す。 中学3生の琴音は受験生であるのにも関わらず、バイト代を稼ぐのに必死だった。 二つ離れた弟と、パートで働く母親との三人暮しだった。 父親は琴音が9歳になった頃に彼女達を捨てて出て行った。 酒、パチンコが生き甲斐の男だった。 それ以外、父親の事は全く思い出せない。 だが琴音は本当は、父親と暮らしたかった。 何故なら、父親は私達家族に対し無関心だったからだ。 琴音は干渉される事が大嫌いだった。 お小遣いなんていらない。 塾なんて行きたくない。 だから……。 琴音は母親の目から離れ、"自由"になりたかった。 このバイトも、家族を助けようとかそう言う理由でやってるんじゃない。 早く自立するためだった。
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