序章

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「ねぇ」 十字路を曲がり、薄暗い郊外に出た所で声を掛けられた。 この道の先にある喫茶店が彼女の働く店だった。 夜は人通りが少なく、安全とは言い難いが、このルートが最短で行ける近道だった。 急いでいた為、一瞬誰に話し掛けられたのか分からなかった琴音は一度、当たりを見渡した。 「こっち」 ポン、と一度肩を叩かれ、琴音は振り返った。 見ると、細身で長身の男が琴音を見下げていた。 男は琴音と目が合うと、形の良い唇の端を上げた。 これ以上遅れたら、バイトをクビにさせられる……。 そう思った琴音は無意識に男を睨み付けていた。 男は全身黒の、怪しげな服装と、だらしなく伸ばした黒髪が印象的だった。
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