1人が本棚に入れています
本棚に追加
「ねぇ」
十字路を曲がり、薄暗い郊外に出た所で声を掛けられた。
この道の先にある喫茶店が彼女の働く店だった。
夜は人通りが少なく、安全とは言い難いが、このルートが最短で行ける近道だった。
急いでいた為、一瞬誰に話し掛けられたのか分からなかった琴音は一度、当たりを見渡した。
「こっち」
ポン、と一度肩を叩かれ、琴音は振り返った。
見ると、細身で長身の男が琴音を見下げていた。
男は琴音と目が合うと、形の良い唇の端を上げた。
これ以上遅れたら、バイトをクビにさせられる……。
そう思った琴音は無意識に男を睨み付けていた。
男は全身黒の、怪しげな服装と、だらしなく伸ばした黒髪が印象的だった。
最初のコメントを投稿しよう!