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メイド達の喧騒。老人の嘆きの声。兵士の足音。子供の泣き声。大人の怒声。
それらはレンガで作られた廊下の壁や床が震える程だ。
避難所も兼ねているヤグルシ城はカオスと呼ぶに相応しかった。
(部屋を完全防音にしたのは失敗かしらねぇ…)
そんな事を考えながら、現状に絶望する。
「九狐!現状は見た方が早く分かるはずだ!」
葵衣がそう言って、双眼鏡を手渡す。が、九狐はそれを受け取らず、指を振る。
「私は人々を纏めてきます!」
リリイはそう言って人混みを掻き分けて走っていく。
廊下の窓を開け身を乗り出し、先程指を振って強化した視力を駆使し状況を見た。
「『円環の陣』…!?
マズいわねぇ…」
黒い集団が地平線いっぱいに広がっている。
「なんで今まで気付かなかったのよ…監視隊は何してたの」
「あの兵達は急に現れたらしいぞ」
スッと葵衣が横に現れる。
「急に、てそんなハズないじゃ……いや、そんな事もないのか…いやでも…」
「どうした?九狐」
「葵衣、被害状況は?」
「マグナス王の通った後だけ、被害報告がきている。
逃げてきた人もマグナス王が通った所に住んでいる人達だ。
きっと、他の兵士達は転移装置ででも飛んできたんだろう。」
はぁ…と溜め息を吐き。
「やっぱりね…
それはそうと、まさか囲まれたりしてないわよね…」
「今の所は囲まれて無い」
「は」を強調して葵衣は言う。
「今の所、ね…」
ツンッと何かが九狐の巫女服を引っ張る。何かと思い、引っ張る主を確認した。
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