過去【前編】

3/23
4828人が本棚に入れています
本棚に追加
/335ページ
綾乃の様子がいつもと少し違う気がして、俺は声をかけた。 綾乃「あ……ううん、なんでもないよっ!」 けれど返ってくるのはぎこちない笑顔と、無理に明るく振る舞った返事だけ。 いつもとは違う違和感に顔をしかめた。 綾乃は何を隠してるんだ――? それは三日後に知らされることになる。 ****** 「何かあの二人、最近ますます仲良くなってない?」 「もしかしてついに…」 休み時間。 廊下を歩いているとそんな会話が耳に入る。 俺は誰のことを言ってるんだろうと思い視線を辿ると、その先には仲良さそうに話す椎乙の綾乃の姿が。 椎乙が笑うのは珍しく、二人の楽しそうな様子に何故か胸がチクリとした。 一人だけ置いていかれたような、そんな寂しさがじわじわと心に染み渡る。 それでも俺は“気のせいだ”と自分に言い聞かせた。 康太「何話してるんだ?」 声を掛けると振り返る二人。 綾乃と目が合うと、不自然に逸らされた。 椎乙「……別に。ただの世間話」 綾乃「そ、そうだよ!昨日子猫が捨てられててねっ。それで―――…」 綾乃の話はあまり耳に入らなかった。 どう考えても何か隠している。 子猫の話なんてきっと今でっち上げた作り話だろう。 心なしか綾乃の顔が赤いのは、知られたくないことがあるからなのか。 一度も俺と目を合わせようとしない。 それに傷付いている俺。 この気持ちは何なのだろう? 康太「――そうか。 …ああ、次の授業に遅れる。早く行こう」 綾乃「う、うん。そうだね。行こっ!しぐちゃん」 椎乙「ん」 綾乃が椎乙の手を取ろうとしたところを思わず叩き落とす。 手を押さえて固まる綾乃と、少し目を見開いて俺を見る椎乙。 俺自身、何故こんなことをしたのかわからない。 ただ、嫌だった。 綾乃が椎乙に触れることが。 二人が手を繋ぐことが。 康太「……悪い。何でもない」 綾乃「あっ、康ちゃん!」 きっと今酷い顔をしているんだろう。 見られたくなくて。俺は二人を置いて、先に教室に戻った。 その日、椎乙と綾乃は教室に戻ってくることはなかった。 .
/335ページ

最初のコメントを投稿しよう!