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綾乃の様子がいつもと少し違う気がして、俺は声をかけた。
綾乃「あ……ううん、なんでもないよっ!」
けれど返ってくるのはぎこちない笑顔と、無理に明るく振る舞った返事だけ。
いつもとは違う違和感に顔をしかめた。
綾乃は何を隠してるんだ――?
それは三日後に知らされることになる。
******
「何かあの二人、最近ますます仲良くなってない?」
「もしかしてついに…」
休み時間。
廊下を歩いているとそんな会話が耳に入る。
俺は誰のことを言ってるんだろうと思い視線を辿ると、その先には仲良さそうに話す椎乙の綾乃の姿が。
椎乙が笑うのは珍しく、二人の楽しそうな様子に何故か胸がチクリとした。
一人だけ置いていかれたような、そんな寂しさがじわじわと心に染み渡る。
それでも俺は“気のせいだ”と自分に言い聞かせた。
康太「何話してるんだ?」
声を掛けると振り返る二人。
綾乃と目が合うと、不自然に逸らされた。
椎乙「……別に。ただの世間話」
綾乃「そ、そうだよ!昨日子猫が捨てられててねっ。それで―――…」
綾乃の話はあまり耳に入らなかった。
どう考えても何か隠している。
子猫の話なんてきっと今でっち上げた作り話だろう。
心なしか綾乃の顔が赤いのは、知られたくないことがあるからなのか。
一度も俺と目を合わせようとしない。
それに傷付いている俺。
この気持ちは何なのだろう?
康太「――そうか。
…ああ、次の授業に遅れる。早く行こう」
綾乃「う、うん。そうだね。行こっ!しぐちゃん」
椎乙「ん」
綾乃が椎乙の手を取ろうとしたところを思わず叩き落とす。
手を押さえて固まる綾乃と、少し目を見開いて俺を見る椎乙。
俺自身、何故こんなことをしたのかわからない。
ただ、嫌だった。
綾乃が椎乙に触れることが。
二人が手を繋ぐことが。
康太「……悪い。何でもない」
綾乃「あっ、康ちゃん!」
きっと今酷い顔をしているんだろう。
見られたくなくて。俺は二人を置いて、先に教室に戻った。
その日、椎乙と綾乃は教室に戻ってくることはなかった。
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