過去【前編】

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――放課後。 綾乃に屋上に呼び出された。 あれからお互いに気まずいまま会話を交わすことがなく、少し緊張しながら俺は綾乃が来るのを待っていた。 綾乃「あ、康ちゃん!もう来てたんだ」 康太「……ああ」 見たところ、いつも通りの綾乃。 だから俺もいつも通りに接した。 しばらく他愛もない話をして、下校時間を知らせるチャイムが鳴ったときだ。 ようやく、綾乃が本題を切り出した。 綾乃「あの、ね…康ちゃん」 頬を染めて、俯き気味に話す綾乃。 その様子はあの時と似ていた。 綾乃「あたし…」 嗚呼、聞きたくない。 大方予想はついていた。 あの二人を見ていればわかる。 耳を塞いでしまいたかった。 ――喜ばしいことじゃないか。 ああそうだ。喜ばしいことだ。 ――じゃあ何故お前はそんなに辛そうなんだ? 何故だろう。わからない。 幼馴染みとして、二人が幸せになればそれは喜ぶべきことだ。 心から祝福してやるべきではないのか。 なのに何故俺の心はこうも冷えきっているのだろう。 綾乃「あたしね、康ちゃんが―――」 ピルルルルルルル 携帯の着信音が、綾乃の言葉を遮った。 綾乃は数回瞬きをした後、はっとなって真っ赤な顔で慌てて電話に出る。 どうやらおばさん――綾乃の母親かららしかった。 綾乃「もしもしお母さん?今ちょっと取り込み中で――――」 綾乃の口からその続きの言葉が放たれることはなかった。 その代わりに大きく目を見開いて固まる綾乃。 どうしたと声を掛けると、ゆっくりと俺の方を向く。その顔は真っ青を通り越して色を失い、今にも倒れそうだった。 そして何か言いたげに唇をわなわなと震わせたかと思うと、か細く「ごめん」と呟いてふらふらとした足取りで屋上を出ていってしまった。 それから綾乃の口から何があったのかを知らされることはなく、月日が過ぎた。 ――・―・――・―・――・―・――・―・―― 実はこの小説を書き初めてから本日11/18で丁度一周年になります! いやぁ、 一年ってあっという間ですね! 正直この私が一年も続けられるとは思っても見ませんでした。 それもこれも、ここまで読んでくださった読者の皆様のお陰です。 本当にありがとうございます!! 最近更新が疎かになっておりますが、気長に待ってもらえると嬉しいです。 どうかこれからもよろしくお願いいたしますm(_ _)m .image=478050076.jpg
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