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【no side】
三人が出ていった後、静まり返る保健室。
シャッっと音がして康太が視線を向けると、そこには憎悪の目で自分を睨む椎乙の姿が。
予想していたかのように康太はフッと笑うと、上半身を起こして椎乙と向き合った。
椎乙「……何を企んでる」
康太「さあな。教える義理はないだろ?」
椎乙は苛立たし気に舌打ちを漏らす。
それを康太は愉快そうに口を歪めた。
椎乙「あいつに手を出すな」
康太「あいつ?誰のことを言っている?」
椎乙「お前…」
わざと惚けて見せると、今にも掴み掛かってきそうな椎乙に「冗談だ」と手を上げる。
――明らかに、中学の時までの椎乙とは違っていた。
昔はここまで感情を表に出すような性格ではなかった椎乙が、この二年でこんなに変わるとは思ってもみなかった。
やはり、蔦根紫鶴の影響か…と無意識の内に口角が上がる。
ますます、紫鶴に興味が沸いてきた。
――おもろい。
紫鶴を自分のものに出来たら――。
……椎乙はどんな顔をするだろう。
どんな気持ちになるだろう。
想像するだけで胸が高ぶった。
康太「…蔦根紫鶴」
自然と口から漏れた名前に椎乙がピクリと反応したのがわかった。
それを横目で確認して、康太は更に言葉を続ける。
康太「彼、面白いな。例え相手が誰であろうと困っている人を放っておけない性格みたいだ」
それを今、身をもって体験した。
お人好し?八方美人?……それともただの馬鹿か?
微かに覚えている、あの時の紫鶴の焦り様は今思い出しても少し笑える。
ふ…と笑えば椎乙が怪訝そうな顔をする。
あれだけ警戒していた相手だ。なのに弱い部分を知ってしまえば、たちまちその警戒を解いた紫鶴。
無防備にも程がある。
何故そこまで人を信じられる?
今の康太には解らなかった。
康太「不思議な人間だ」
ぼそりと呟くと、独り言のつもりだったが椎乙がため息混じりにそれに答えた。
椎乙「……ただの馬鹿だよ」
康太「ふっ…そうか」
――本当に、不思議だ。
彼の話をしていると、さっきまでの険悪な雰囲気は何だったのか。とても穏やかな気分になる。
まるで昔に戻ったかのようだ――と心の端で二人は思った。
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