4851人が本棚に入れています
本棚に追加
椎乙の家は大きな会社を営んでいた。
父は社長。母はデザイナー。
多忙な両親は椎乙が小さい頃から家を空ける事が多く、一人っ子の椎乙は毎日一人で、しかし文句一つ言わずに孤独に耐えていた。
そして椎乙が小学校に上がる頃。
本来なら私立の小学校に通う筈だったが、椎乙はその日初めて両親に我儘を言った。
「普通の学校に通いたい」と。
「椎乙。どうだった?」
「……」
黙り込む椎乙に、黒髪の綺麗な少年が不安げな表情をする。
「だ、だめだったのか…?」
ゆっくりと顔を上げ、無表情で自分を見つめてくる椎乙に駄目だったのかと肩を落とそうとした時。
「……いいって」
「――えっ!?」
少年は椎乙の肩を思わず掴んだ。
いきなりのことに最初は驚いた顔を見せた椎乙だが、「よかったな」「やったな」とまるで自分のことのように喜ぶ少年を見て、嬉しそうに顔を綻ばせた。
「これで春からいっしょの学校に通えるな!」
「うん」
二人は顔を見合わせて、これから始まる新しい生活に胸を弾ませたのだった。
また、
少年の名は、西澤康太といった。
.
最初のコメントを投稿しよう!