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「しぐま。この子がうちのとなりに住んでるあやのちゃん」
「よろしく、しぐまくん」
天使のような笑顔を浮かべる綾乃を、椎乙はなんだか苦手だと思った。
ただの勘でしかないが、その笑顔の裏にはとんでもない物を持ってるんじゃないかと少なからず疑っていたのは確かだ。
「……よろしく」
差し出された手を握り返しながら、綾乃という少女をじっと伺う。
その視線に気が付いた綾乃が「なに?」と首を傾げたのを見て、椎乙は思わず顔を逸らした。
「こーたくん、しぐまくん。あっちでおにごっこしよ!」
「うん」
「いいよ」
――じゃんけんの結果、鬼は康太に決まった。
椎乙は綾乃に手を引かれ、嫌だと言えないまま一緒に鬼から逃げる羽目に。
康太が数を数えている間に二人は茂みの中に身を隠した。
「ここならしばらく見つからないね」
「う、うん…」
康太以外の子供と話すことに慣れていなかった椎乙は綾乃の顔を見て話すことが出来ず、俯きながら返事をする。
その際にずっと握られていた手に気付き、恥ずかしくなって慌てて振り払ってしまった。
「あ…ごめ……」
すぐに謝ろうとするが、振り払われた手を何も言わずにじっと見つめる綾乃に何か異変を感じて押し黙る。
そしてゆっくりと椎乙を見たその顔は、さっきまでとはまるで違っていた。
「あ、あやのちゃ…」
「うるさい!」
一瞬何が怒ったのか分からなかった。
ようやく自分が頬を引っ叩かれて地面に尻餅を着いていると理解する頃には、綾乃は次の動作に移ろうとしていた。
髪を引っ張られ、ぐいっと顔を近付けられる。
その目は見開き、口は歪な形で弧を描いている。まるでホラーだと思った。
「せっかくあやのがやさしくしてあげたのに……ひどい、しぐまくん」
「う…」
痛みに顔を歪めると、綾乃は楽しそうにケラケラと笑う。
そして一頻り笑った後ふっと無表情になり、
「……しぐまくんが来てから、こーたくん…あんまりあそんでくれなくなったの」
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