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小学校に上がってからも、綾乃からの嫌がらせは続いた。
むしろ日に日に酷さが増してきた気がする。
けれど隠すのが上手い彼女は、虐めていることを他の誰にも気付かせなかった。
もちろん、椎乙の口からバラされることもない。
椎乙はどんな苦痛にも黙って耐え続けた。
――そして、
三人が小学校を卒業し、中学に上がった頃。
綾乃からのいじめは、暴力的なものから性的なものへと変化していった。
これには流石の椎乙も抵抗した。
好きでもない相手にこんな行為、したくもなかった。
けれど抵抗すればお前に襲われたとみんなに言いふらすと脅されれば、大人しくなるしかない。
たとえ否定したとしても、みんな無口で無愛想な椎乙より、明るくて社交的な綾乃の言う事を信じるに決まっているからだ。
それでも、康太だけは自分の味方でいてくれると信じていた。
だからある日、言ったのだ。
その日は丁度、雨だった。
「……康太、話がある…んだけど」
「どうした、椎乙?」
ここに、綾乃はいない。
今日は用事があると言って一人先に帰ったのだ。
椎乙は今までにないくらい緊張していた。
コクンと唾を飲み込んで、ぎゅっと拳を固く握る。
そして告白したのだ。
「綾乃にいじめられている」
――と。
「……は、っ…?
いきなりどうしたんだ?冗談なんて、らしくな―――」
「冗談じゃない」
「……冗談じゃ、ない」
もう一度、俯いてそう言えば康太にも冗談ではないことが伝わったんだろう。
コクンと唾を飲む音が聞こえ、「本当なのか」と確認するように聞いてくる。それに椎乙は頷いた。
「……そうか。気付いてやれなくてすまなかった」
頭を下げてくる康太を慌てて止める。
康太が謝ることじゃない。
これは、自分と綾乃の問題だから。
そう言い聞かせて、渋々ながらようやく頭を上げてくれたことにほっとする。
「――とにかく、俺は綾乃にいじめを止めるよう説得してみる」
「え…」
待って。それは駄目だ。
そんなことをしたら――――
『誰かに言っても無駄だから。もし康ちゃんにバレるようなことがあったら……わかってるよね?
……絶対に赦さないから』
綾乃の言葉を思い出す。
震える身体を己の腕で抱き締めた。
……ああ、どう足掻いても綾乃からは逃れられない。
椎乙は俯いて、口元を歪めた。
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